2013年5月11日土曜日

tomori lab 文献抄読会(3) 作業療法の定義は約30年変わっていません.

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院生のohnoです.
前回の記事(作業療法のこれまでとこれから)では,日本における作業療法は国内外からのあらゆる要因の影響を強く受けながら発展を遂げてきたことについて書かせて頂きました.今回は「作業療法」そのものを意味する【作業療法の定義】に関して私見を書かせて頂きます.

定義とは「ある概念の内容やある言葉の意味を他の概念と区別できるように明確に限定すること(大辞林)」とされている.医療あるいは保健,福祉の領域の中で対人援助職である作業療法士にとって,クライエントとの関わりはもちろんのこと他職種との関わりが避けては通れないものである.つまり,作業療法が職業としての専門性を他職種と差別化して,クライエントに自身の役割について説明するためには,定義について十分な理解を深めることが重要であると考えられる.


図は,日本と世界作業療法連盟(World Federation of Occupational Therapists;以下,WFOT),それぞれの作業療法の定義の改定について記したものである.WFOTにおいては作業療法に求められるニーズの変化や,その時々の社会情勢などに応じて作業療法の定義がこまめに修正されていることが分かる.

※ただし,WFOTの定義に関する記載に関しては,ハンドブックや用語集などに記載された作業療法の概要について言及されている説明や声明なども併記している.各年のWFOTによる記述をページ下部にまとめて記す.



WFOTにおける作業療法の定義の変遷(下記参照してください)


1962年の時点では,作業は機能再建を図るための手段的利用として用いられると記載されている.これは当時の欧米で医学的モデルに基づいた還元主義的な作業療法が全盛であったことを強く反映しているものと思われる.

1974年及び1984年には,作業療法の目的に個人のニーズの達成に関する記述が加えられ,機能改善に終始しないことが示された.

1993年の改訂では作業療法の目的に「participate(参加)」が用いられ,主体的な参加によって健康が促進されることが提言された.

2004年の改訂では,これまで一貫して使用されてきた「function(機能)」がなくなり,作業が持つ意味が,治療媒体としての手段的利用から,「作業を通して健康を促進する」という目的的利用へと変わった.また,作業療法の成果が人々の参加によって判断されるということが強調されるようになった.つまり,作業療法が作業(occupation)に関して展開されることを宣言することで,他職種との役割の差別化が図られている.

2010年の声明文では,クライエント中心client-centredという言葉が新しく登場した.
このように,WFOTは外部から求められるニーズの変化に応える形で,定義のマイナーチェンジを繰り返しながら職業としての専門性や独自性の確立を図ってきた.



日本における定義の変遷

日本で初めて作業療法の定義が明文化されたのは,1965(昭和40)年に制定された理学療法士及び作業療法士法である.

第2条 第2項
作業療法とは,身体及び精神に障害のある者に対し,主としてその応用的動作能力又は社会適応能力の回復を図るため,手芸,工作その他の作業を行わせることをいう.
(理学療法士及び作業療法士法 昭和40年6月29日 法律第137号より 抜粋)


その20年後の1985(昭和60)年には,日本作業療法士協会が作業療法について以下のように定義づけた.

身体または精神に障害のある者,またはそれが予測されるものに対してその主体的な活動の獲得をはかるため,諸機能の回復・維持および開発を促す作業活動を用いて行う治療・指導・援助を行うこと.
(社団法人本作業療法士協会第20回総会時承認,昭和60年6月13日)


 また,近年になると多種多様な医療スタッフが,各々の専門性を相互に連携・補完し合うことで,患者の状況に的確に対応した医療を提供する「チーム医療」に関心が寄せられるようになり,医師以外の各医療スタッフが実施することが推奨される業務内容の具体例について記した報告書「チーム医療の推進について」が,2010年に厚生労働省によって発表された.

作業療法の範囲
理学療法士及び作業療法士法第2条第2項の「作業療法」については,同項の「手芸,工作」という文言から,「医療現場において手工芸を行わせること」といった認識が広がっている.
以下に掲げる業務については,理学療法士及び作業療法士法第2条第1項の「作業療法」に含まれるものであることから,作業療法士を積極的に活用することが望まれる.
・ 移動,食事,排泄,入浴等の日常生活活動に関するADL訓練
・ 家事,外出等のIADL訓練
・ 作業耐久性の向上,作業手順の習得,就労環境への適応等の職業関連活動の訓練
・ 福祉用具の使用等に関する訓練
・ 退院後の住環境への適応訓練
・ 発達障害や高次脳機能障害等に対するリハビリテーション
(医政発0430第2号及び第1号,2010年4月30日,一部抜粋)


作業療法の専門職としての役割について議論されることはあっても,日本における作業療法の定義は,1985年に日本作業療法士協会によって定義が作成されて以降,現在に至るまでの約30年もの間に一度も改訂されることがなかった.

1965年または1985年に定義が作成された当時と比べると,現在の作業療法,そして社会からの作業療法に対する要請も劇的に変化している.特に2000年に介護保険が施行され,作業療法士の職域は地域へ広がった.そして現在,日本作業療法士協会は生活行為向上マネジメントを掲げ,今後他職種と連携しながら地域へとさらに職域を拡大していく方針を示している.にもかかわらず,現行の定義は「諸機能の回復・維持および開発を促す作業活動を用いて行う治療・指導・援助」という作業の手段的活用のみが記載されており,WFOTの定義にあるような目的的活用については明記されていない.そこに方針と定義のズレが生じている.

再掲するが,定義とは「ある概念の内容やある言葉の意味を他の概念と区別できるように明確に限定すること」である.今後さらに社会からの要請は多様化し,私たちの職域は変化するだろう.そのなかで,私たち作業療法士の専門性や独自性を他職種と区別できるように,定義については再考の余地があるだろう.そして今後社会情勢にスピーディに対応できるよう,定義を常に見直しするシステムの構築が必要であろう.


いつやるか → でしょ


最後に,話題はややそれるが,澤田さんも指摘している通り,現行の診療報酬制度では,医療保険でも介護保険でも,屋外での介入に対して算定基準が曖昧(基本的には禁じられている)であり,作業の目的的活用を臨床で実践するためには法改正も併せて必要である.


最後まで読んでくださり,ありがとうございました.



以下資料(WFOTの定義の変遷)




1962年:WFOTが発行したパンフレット”Functions of Occupational therapy(作業療法の機能)”には,作業療法の定義が記されている.

作業療法は,有用な機能の再建を促進するために,専門的な資格を有した作用療法士によってデザイン,適用される建設的な活動を手段として用いて,物理的およびまたは精神的な障害に対して医学的に行われる治療である.
Occupational Therapy is a medically directed treatment of the physically and/or mentally disabled by means of constructive activities, such activities designed and adapted by a professionally qualified occupational therapist to promote the restoration of useful function.
(Mendez, M. A. "A chronicle of the World Federation of Occupational Therapists 1952-1982.", p19, 1986).


1974年:定義改訂
作業療法は,選択された特定の手段を用いて行われる評価および治療である.作業療法は,一時的あるいは永続的な身体的,精神的な疾患,そして,社会的,発達的な問題を有する人々のために作業療法士によってデザインされる.作業療法の目的は,障害を予防することや,機能を最適な状態にし,仕事や社会,家庭などの環境で自立した状態で個人のニーズを達成することである.
Occupational Therapy is assessment and treatment through the specific use of selected activity.This is designed by the occupational therapist and undertaken by those who are temporarily or permanently disabled by physical or mental illness, by social or developmental problems. The purpose is to prevent disability and to fulfil the person’s needs by achieving optimum function and independence in work, social and domestic environments.
(Mendez, M. A. "A chronicle of the World Federation of Occupational Therapists 1952-1982.", p65, 1986).


1982年:WFOTが作成した用語集に記載されたOccupation Therapy Services
地域社会における作業療法サービスは,活動を遂行するためのニーズや潜在能力を評価するための手段として,あるいは日常生活における要求に対応した能力を強化するための直接的もしくは間接的な介入として,最前な健康を達成することや,個人あるいは集団,社会の発達を促進することを目的に提供される.
Occupational Therapy Services in the Community are provided to achieve optimum health, and promote the development of individuals, groups or communities, by means of the assessment of needs and potential for the performance of activities, and by direct or indirect intervention, which will increase competence in meeting the demands of daily living.
(Mendez, M. A. "A chronicle of the World Federation of Occupational Therapists 1952-1982.", p86, 1986).

1993年:定義改訂
 作業療法は,一時的あるいは永続的に身体または精神の疾患を有し,機能障害や社会的不利を抱えている人々に関連する学問分野である.専門職としての資格を取得した作業療法士は,患者の仕事,社会,個人,家庭それぞれの環境における要望に応えることや,充足感を持って生活に参加できることの促進を目的に,患者の回復や生活機能を最大限に利用するための活動に患者を療法に巻き込んでいく.
Occupational Therapy is a health discipline which is concerned with people who are physically and/or mentally impaired, disabled and/or handicapped, either temporarily or permanently. The professionally qualified occupational therapist involves the patients in activities designed to promote the restoration and maximum use of function with the aim of helping such people to meet the demands of their working , social, personal and domestic environmet, and to participate in life in its fullest sense.
(Definitions of Occupational Therapy,WFOT,1998,一部抜粋)


2004年:定義改訂
作業療法とは,作業(occupation)を通して健康と安寧(health and well-being)を促進することに関わる専門職である.作業療法の目的は,人々が日常の活動(activities of everyday life)に参加できるようにすることでQOLを向上させることである.
作業療法士は,人々の参加する能力を高めるような様々なことをできるようにしたり,参加をより良く支援するために環境を修正することによって,この(日常の活動に参加するという)成果を達成する.
Occupational Therapy is a profession concerned with promoting health and well being through occupation. The primary goal of occupational therapy is to assist people to participate in the activities of everyday life and enhance the quality of their lives.
Occupational Therapists achieve this outcome by enabling people to do things that will enhance their ability to participate or by modifying the environment to better support participation.
(WFOT 2004)


2010年:WFOTの声明文
作業療法は,作業を通して健康と安寧(health and well-being)を促進することに関心をもつ,クライエント中心の健康関連専門職である.作業療法の主な目標は,日常生活の活動に人々が参加できるようになることである.作業療法士は,人々や社会の人と一緒に,彼らがしたいこと,必要なこと,期待されることに関する作業ができるようになることをしたり,彼らの作業への関わりをサポートするために環境や作業を修正したりすることで,アウトカムを達成する.
Occupational therapy is a client-centred health profession concerned with promoting health and well being through occupation. The primary goal of occupational therapy is to enable people to participate in the activities of everyday life. Occupational therapists achieve this outcome by working with people and communities to enhance their ability to engage in the occupations they want to, need to, or are expected to do, or by modifying the occupation or the environment to better support their occupational engagement.
(WFOT 2012)


1 件のコメント:

  1. 2010年のWFOTの定義ですが、(WFOT 2012)となっていますが、2012年にも定義が見直されたということなのでしょうか。
    自分たちが何をするべき仕事なのか、定義を踏まえて考えなくてはと思いました。

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