2015年5月31日日曜日

「手が動く」ことと「手を使う」ことは同じ? ADOC-Hの開発

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日々筋肉痛のtomoriです.機能訓練のしすぎでしょうか(笑)


さて,日常生活で手の使用を促すためのアプリ ADOC for hand(ADOC-H) ですが,6月にある第49会日本作業療法学会に間に合わせるべく,毎日動作チェックしたり,フライヤーを作ったりと,鋭意努力中でございます.



僕も臨床に出てよく耳にするようになりました.「この手が動くようになったら何でも出来るのになぁ」と.その患者さんの心情はよく分かるのですが,やはり「手が動く」ことと,「手を使う」ということは同一線上にある関係ではないと経験的に思いますし,その考えを裏付けるような研究もポツポツ出てきています.

Randら(2012)の報告では,入院中の脳卒中患者の上下肢に加速度計を装着させ,上下肢の機能向上と日常生活における使用頻度の関連性について検証しています.その結果,下肢では機能向上と共に日常生活での使用(歩行)も向上したものの,上肢では機能は向上しているものの,生活場面の使用頻度は訓練時間は向上したものの,それ以外で有意な向上は認めれなかったそうです.つまり機能は向上したものの,訓練時間以外で手を使っていなかった,ということです.

タカシくんの研究(2015)では,CI療法実施1年後の患者さんのMotor Activity Log(MAL)とFugl-Meyer Assessment(FMA)のchange scoreの相関はかなり高い (R = 0.778, P = 0.001)ということです.横断研究なので因果関係までは分かりませんが,2013年のRCTでTransfer Package(TP)非実施群はCI療法から半年後にFMAが低下し,TP実施群はFMAが向上し続けることが分かっているので,おそらく手を使うことで手の機能が向上する,逆に手を使わなければ機能は低下する,と思われます.

他にも脳科学的にも手の動作と道具使用については,神経経路が異なるとも言われています.この辺は専門書に譲るとして... これらのことからも,手が動く,ということと,手を使う,ということは別物と考えられます.療法士で,手が動くことを最終目標にされている方はいらっしゃらないと思います.やはり手を使って自らの生活を豊かにしていくことが最終目標でしょう.


もちろん「言うは易く行うは難し」で,手を使うという行動変容を促すことははっきりいって難しいです.タカシくんは簡単だといいますが(笑) そこで彼と,院生のohnoくんとで作ったアプリがADOC-Hです.

ADOC-Hでは,手を使う場面のイラストを用いているので,言葉のみの刺激よりもイメージ想起が容易になることが予測されますし,活動が細分化されているので,small stepで手の使用を促すことができます.他にも,Apple Watchとの連携を検討しています.つまりADOC-Hで設定した手を使う活動が,生活場面でApple Watchに表示される,というものです.現在Apple WatchのAPIの制限が多く,実装できる機能が少ないらしいのですが,今後制限がとれてくるといろいろ幅広い仕掛けができそうです.





今回のOT学会で,ADOC-H関連は2演題あります.日時は分かりませんが(笑),質問はその時に

O2423 PDF
実生活における患手の使用を促進するためのアプリケーションの開発: ADOC for Hand
大野 勘太 1) , 竹林 崇 2) , 友利 幸之介 3) 
1) 神奈川県立保健福祉大学大学院 保健福祉学研究科 , 2) 兵庫医科大学病院 リハビリテーション部 , 3) NPO法人ADOC project


P1019c PDF
Aid for Decision-making in Occupation Choice for hand (ADOC-H) 紙面版 のCI療法における試用:事例検討
大谷 愛 1) , 竹林 崇 1) , 古河 慶子 2) , 友利 幸之介 3) , 道免 和久 4) 
1) 兵庫医科大学病院 リハビリテーション部 , 2) 兵庫医科大学 リハビリテーション部 , 3) 神奈川県立保健福祉大学 保健福祉学部リハビリテーション学科 , 4) 兵庫医科大学 リハビリテーション医学教室

僕の筋肉痛を早く和らげるためにも,ADOC-Hの開発を急ぎたいと思います(笑)


その他,僕が関係しているのは4演題で,

O1323
デイサービスにおけるADOCを用いた作業に焦点を当てた実践: 事例報告
上江洲 聖 1,3) , 久志 仁 2) , 友利 幸之介 3) 
1) 日赤安謝福祉複合施設 , 2) 安謝老人デイサービスセンター , 3) NPO法人 ADOC project

O2202
幼稚園でのADOC-S(学校版作業選択意思決定支援ソフト)の活用
―先生,保護者,幼児が希望する将来に向けた支援―
仲間 知穂 , 友利 幸之介 
NPO法人ADOCproject

P1241a
介護老人保健施設におけるADOCを用いた作業療法の効果と費用効果分析
―クラスター型パイロット無作為化比較試験―
長山 洋史 1) , 友利 幸之介 1,3) , 大野 勘太 2) , 小河原 格也 1) , 澤田 辰徳 4) 
1) 神奈川県立保健福祉大学 作業療法学専攻 , 2) 神奈川県立保健福祉大学大学院 保健福祉学研究科 , 3) NPO法人ADOC project , 4) イムス板橋リハビリテーション病院 リハビリテーション科

P2656h
作業療法面接の自信に対する作業選択意思決定支援ソフト(ADOC)の影響
齋藤 佑樹 1) , 友利 幸之介 2) , 長山 洋史 3) , 菊池 恵美子 4) 
1) 学校法人こおりやま東都学園 郡山健康科学専門学校 , 2) NPO法人 ADOC project , 3) 神奈川県立保健福祉大学 , 4) 帝京平成大学大学院 健康科学研究科作業療法学専攻

これらの発表も激アツですよ(笑) ぜひ起こしください.ちなみに上江洲くんの共同演者なのに,僕は彼のセッションの座長になっていました(笑)


その他,ADOCを用いた報告が9演題あります.ホント嬉しいですね〜.自分が関わっていないところからもADOCを使った報告が増えてきて,キーワードにも登録されるとのことなので,ようやく市民権を得ることができたかなぁと思います(笑).

ではでは.最後まで読んで下さりありがとうございました.



写真は地元で人気の定食屋さん,菊栄食堂のカレー.これが意外に美味しかったです(笑)具の,宮古島かまぼこと,ピーマンに感動(笑)これこれ〜!みたいな.宮古出身しか共感できないと思いますが(笑)




2015年5月24日日曜日

施設での作業療法

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カミさんが「いいこと思いついた!」と冷えピタを貼ってます(笑).tomori@宮古島です.暑いだけでなく,梅雨真っ盛りです.

宮古島に帰ってから早1ヶ月.少しのんびりできるかと思いきや,朝はヨガに英会話,仕事もろもろ,平日は臨床,休日は部屋の片付け,そしてPTA(笑)ブログ書く時間も無いくらいバタバタした生活を送っています.こまめにアップすると宣言したばっかりだったのに(笑)



慣れない臨床では,施設入所者と通所の方をあわせて1日15〜20名くらいみて,入所者のリハビリテーション実施計画書を作り直しています.基本入所施設に配属なので,回復期や外来のように1日1日が勝負!というよりは,時間的にのんびりした状況です.臨床は分からないことだらけなんですが,文献を調べたりしながら仮説を立て,実際に試してみて変化があれば喜び,無ければ再度考え... というサイクルを楽しんでいます.

リハ担当は,前任が鍼灸師,その前がPTさんでしたので,基本的にリハビリ=機能訓練な状況です.リハスタッフは僕一人なので,皆さんに求められるがまま,プラットフォーム,平行棒,ティルトテーブルをフル活用しています(笑).

一方で,施設は入所者さん全員に訪問リハができるような環境だし(笑),訪問時間以外も生活をじっくりと見れることはいいですね.直接的なADL訓練,自助具作成,介護方法の検討などもしています.



それはさておき,施設とかで働いているとなかなか作業療法の専門性が分からなくなってくると以前聞いたことがありますが,僕が約1ヶ月施設で働いてみて思うことは,むしろ施設にこそ作業療法が必要だろうと思います.時代はやれ地域だ教育だ就労だと新規開拓に熱心ですが,従来から沢山ある「施設」に目を向けていってもいいんじゃないでしょうか.



というのも作業機能障害(寺岡,京極)が多く存在しているからです.入所者さんの発言を作業機能障害の視点で整理してみると…

「暇すぎる」:作業不均衡
暇すぎたり,忙しすぎたりが続いている.生活のバランス,生活週間が崩れている.

「ここじゃ無理でしょ」:作業周縁化
やりたいことはあるけど,周囲から止められる.周囲の期待と自分がやりたいことにギャップがある.

「この体じゃ何も出来ない」:作業疎外
生活に楽しみがなく,気分が沈みがちである.体が不自由でやりたいことができない.

「することがない」:作業剥奪
道具や材料がないからやりたいことができない.好きなことをする機会がない.話し相手がいなくて寂しい.



などなど多くの作業機能障害が存在しています(評価表は使ってませんが).もちろん作業機能障害が存在しているからといって,これをすぐに作業療法でどうにかできるというほど簡単なものではありません.

入所者が何か作業をするにしても遂行技能はそれほど高くないし,何よりも長い入所生活のなかで,入所者自身が「自分は何も出来ない人」というストーリーを創り,それが結構強固です.また環境的にも,入所者は転倒や熱発などちょっとしたアクシデントでも加速的に悪化するので,とりあえず「安全に」が最優先になります.

こんな話は至極当然で,大学にいるときも様々な臨床家から現場の話は聞いてはいたのですが,いましみじみと実感しています.現場ってこんな大変だったんだなと.もしそれが変わったのなら,そりゃ確かに涙が出るほど嬉しいことだろうなと.

以前,OT全国学会で琉球OTさんが,涙目になりながら10年おでんを発表していたとき,僕はそばで笑ってましたが,今ならその気持ちに共感できそうです(笑) 



さて,もう少し作業機能障害を整理して,それに対して介入戦略を組み立てていくのが当面の課題です.僕は臨床家としては非能だなぁと日々痛感していますが(笑),入所者さんの「自分は何も出来ない人」という自己物語をどうにか変えていけるよう,日々小さなことからお手伝いしていきたいと思います.

最後まで読んで下さりありがとうございました.


写真は伊良部大橋からみた海です.





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