地元の部落対抗バレーボール大会に出てきました.tomoriです.よく分からないのですがサーブが決まりすぎて,前腕の屈筋群を痛めました.後衛でほとんどボールも受けてないのですが,疲労困憊です.
▼
さて,わけあって機関誌「作業療法」の研究論文の過去10年分,295編をレビューしています.その中で,面白かった研究を紹介したいなと.ちなみに僕が面白い!と思うのは,研究として質が高いとか,デザインが厳格かどうか,というよりイシューを取り扱っているかどうかです.イシュー度が高い研究とは何なのかについては,この本を読んでください.
どんなに厳格な研究デザインであっても,その結果が世の中にとって何のインパクトを持たなければ意味がない.とまでは言わないが,インパクトが低い研究をいくら沢山やってもレバレッジが効かないんですよね.さておき,いくつか紹介します.
▼
33巻 1号, pp. 67–74
統合失調症の認知機能障害に対する個別作業療法の効果
島田 岳, 小林 正義, 冨岡 詔子
要旨:統合失調症の認知機能障害に対する個別作業療法の効果を検討した.新規入院患者を対象に,目標指向的な個別作業療法群(介入群)または課題指向的な作業療法群(対照群)に任意に割り付け,3ヵ月後の効果をBACS-J,PANSS,GAFで評価した.41名が対象となり介入群は25名,対照群は16名であった.介入前の評価には両群間で有意差はなかった.3ヵ月後,介入群ではBACS-Jの言語性学習記憶,ワーキングメモリ,言語流暢性,注意と処理速度,遂行機能,総合得点,PANSSの陽性症状が有意に改善した.本研究は目標指向的な個別作業療法が回復早期の統合失調症の認知機能障害と精神症状を改善させることを示している.
→精神科では診療報酬体系が1日50人以内(これでも減った)となっており,個別作業療法が実施しにくい状況が長々と続いています.それとは反して,やれ早期退院促進やら,長期入院クライエントの高齢化でADLの介助や身体訓練が必要だったりと,個別で作業療法を行わないと厳しい状況にあります.このイシューに対して,対象者は多いとはいえないが,対照群を設けて介入を行い,良好な結果が得られています.今後,さらに研究デザインを洗練させることで良い研究へと発展するだろうと思われます.
▼
認知症患者に対するコンピューターを用いた認知機能向上訓練の効果―前頭連合野機能を基盤とし個人の能力・興味にテーラーメイド可能な訓練の開発と試行から─
竹田 里江, 竹田 和良, 池田 望, 松山 清治, 石合 純夫, 船橋 新太郎
31巻 5号, pp. 452–462
要旨:ワーキングメモリ機能,目的志向的行動の計画や実行など前頭連合野機能を基盤にし,個人の興味・関心や遂行能力にテーラーメイド可能な訓練を開発した.今回,アルツハイマー型認知症の1症例に施行したところ,語の流暢性,抑制コントロール,記憶機能に向上を認めた.また,日常生活面での記憶,見当識,会話に改善が得られ,うつ状態評価尺度や症例の感想から情動面の改善も示唆された.本訓練は実生活に密着した内容で,対象に合わせて課題の難易度や題材を設定できる.単なる反復的な記憶訓練ではなく過去の記憶やアイディアの創出を刺激することを意図している.こうした特徴が症例の認知・情動の両側面の機能改善に寄与したと考えられた.
→やはりICTの活用は今後重要なテーマになってくると思いますが,いまのところただのキャッチーなゲームばかりで,期待度と現実のギャップが大きい領域でもあります.このギャップが大きいところにイノベーションが隠されているといっても過言ではないでしょう.現状,脳トレなどのゲームは,そのゲームのレベルは上達するけども,他の認知機能などへの汎化は難しいとされています.その一方で,青年期うつ病患者向けの認知行動療法をベースに開発されたゲーム,SPARXは,対面式の心理カウンセリングよりうつ症状を軽減させる効果があるそうです.本研究も1例ではありますが,将来性は高いと思いました.そして本来事例報告とはこうあるべきだろうと思いました.
▼
休日リハビリテーションの有効性に関する研究の分析
澤田 辰徳, 小川 真寛
33巻 1号, pp. 11–23
要旨:国内外の研究から休日リハビリテーション(以下,休日リハ)の実施状況や効果を調査し,傾向と課題を明らかにすることを目的とした.PubMedおよび医学中央雑誌より20件の調査が抽出できた.調査的研究では休日リハ実施施設が増加傾向だがマンパワー不足の問題が明らかになった.実験的研究では入院期間(length of stay;以下,LOS)を調査した報告が多く,休日リハにより全体のLOSが短縮した報告は3件,サブグループで短縮した報告は3件,短縮が認められない報告は6件であった.成果の傾向は一様ではなく,今後,休日リハの日数や介入量,関連職種などの様々な要因を検討し,ランダム化比較試験などの質の高い研究を行う必要性が示唆された.
→我らが澤田さんの研究.ぼちぼち医療福祉における,厚労省の診療報酬の決定プロセスだったり,現場のブラックさだったり,色んな面で現場の医療福祉職が振り回され,週末までもこき使われる現状に少し嫌気がさしています... これから高齢化社会を迎えるにあたり,財源・人材は非常に貴重なものです.効果的に金と人をまわさなければいけない時期にあります.点数つけるかつけないか,ちゃんと検証してからにしてほしいです.でないと現場がますます疲弊していきます.澤田さんの研究は文献レビューではありますが,「科学的」に検証してから点数や現場をどうするか意思決定してほしいものです.
▼
CI療法における麻痺側上肢の行動変容を促進するための方策(Transfer Package)の効果
竹林 崇, 花田 恵介, 天野 暁, 髻谷 満, 小山 哲男, 道免 和久
31巻 2号, pp. 164–176
要旨:【はじめに】Constraint-induced movement therapy(以下,CI療法)におけるTransfer Package(以下,TP)は日常生活における麻痺側上肢の行動を変容させる手法である.本研究では,TPの長期的な効果について検討する.【方法】研究デザインは2施設,単一盲検,偽無作為化比較試験である.対象者をCI療法にTPを導入した群(TP+群)とCI療法からTPを除いた群(TP-群)に割り付け,CI療法後6ヵ月間,麻痺側上肢の機能を調査した.【結果】TP+群は-群に比べ,6ヵ月後に麻痺側上肢は有意に改善した.【結論】TPは麻痺側上肢の長期的な改善を促す効果的な手段である.
→前も紹介しましたが,竹林さんのRCT.そもそも慢性期の麻痺手は治らないという定説を塗り替えるばかりか,訓練終了後の6ヶ月後でも機能が改善していくとは(笑)それだけでなく,作業療法最大の仮説と言われている,Mary Reilly「人は心と意志に賦活されて両手を使うとき,それによって自身を健康にすることができる」の検証に大きく前進させた研究でもあると個人的には思っています.作業療法の本質,まさにイシュー度高いし,解の質も高い,これぞ良質な研究ですね.本文に事例を載せていて,それも型破りな書き方で個人的には面白かったです.
▼
他にもいろいろありますが,眠たいのでここで失礼します(笑) 研究のレビューって,どれだけデザインの質が高いか,で評価されがちです.RCT至上主義ってやつですかね.もちろんRCTが今後EBPを行う上で重要になってくることはよくわかりますが,いくらRCTでもイシューが低ければ意味がないと僕は思っています.研究のための研究はしたくないですね.ではでは.
最後まで読んでくださりありがとうございました.
2016年5月29日日曜日
2016年5月28日土曜日
Journal of Physical Therapy Scienceが叩かれたらしい
暑くて眠れず夜中に仕事しています.tomoriです.梅雨で29-30度はさすがに辛い.しかしついこの間,秋田県が30度超えてると聞いて,びっくりしました.
▼
さて,理学療法科学学会が出版しているJournal of Physical Therapy Science(JPTS)がアメリカのJeffrey Beallさんというブロガーに叩かれているようです.理由は以下の通り(カッコ内は僕の解説)
僕も,一人で初めて英語論文に投稿したのはこのJPTSでした.あの頃はインパクトファクターもなく,minorな雑誌でした.それでも自分の英文が活字になって掲載されたときは,次に繋がる大きな自信につながったのを覚えています.
英語が苦手な日本人にとって,ファーストステップ的な雑誌の役割もどこかで必要かとは思いますが,上記の指摘のようになるとちょっとやり過ぎだろうと言われても仕方ないのかなと思います.ともかく個人的には,JPTSの掲載が僕の英語論文を書くモチベーションアップにつながったことは間違いなく,JPTSさんには感謝しています.
▼
なぜこんなことを取り上げたかというと,ここ10年で,教員になるための研究業績,そして大学院の修了も,インパクトファクターで決まるような,ちょっとえげつない世の中になってきました.さらに,ITの普及によって「紙面の関係でより良いものを選定しなければいけない」という概念がなくなりました.この2つの歪みがJPTSに集中したのでしょう.つまり,この件は,なにもJPTSだけが責められるわけではなく,僕も含めJPTSに投稿した著者も加担していたという,反省をもって取り扱わなければいけません.
そしてオープンアクセスのジャーナルは他にもごまんとあります.そんな今だからこそ,地に足をつけた研究スタイル,そして研究者としての正しい倫理観を持つことが,長期的な生き残りに繋がるのかもしれません.
▼
また,論文の編集や査読に携わる機会が増えてきてる昨今,改めてエリを正さなければと思ったのです.僕はいま日本臨床作業療法研究の編集長で,その他多数の論文を査読する立場にあります.査読するときには,論文が掲載されることの成功体験を多くの人にしてもらいたいという気持ちと,こんな論文は掲載できないだろうという気持ちと,常にジレンマを感じます.優しい僕は(笑),前者の気持ちが優位ではあるのですが,上記のJPTSのような指摘があると,ハリボテの成功体験は逆に当人にとって良くないかもしれません.
あ,あと,日本作業療法士協会のAsian journal of Occupational therapyも体制を整えていこうと学術部が頑張っています.僕も査読委員として応援するつもりですが,JPTSの同じ轍を踏まないことを期待しています.
最後まで読んでくださりありがとうございました.
▼
さて,理学療法科学学会が出版しているJournal of Physical Therapy Science(JPTS)がアメリカのJeffrey Beallさんというブロガーに叩かれているようです.理由は以下の通り(カッコ内は僕の解説)
- 毎月50本が通っている(通りやすい)
- 編集長や編集委員などが見当たらない(誰が編集・査読しているか分からない)
- 論文が2-4ページと短く,ほとんどが4-5週でアクセプト(早すぎるということはちゃんと査読していない,すぐOKしているなどが考えられる)
- 出版社がある日本以外の国の著者が多い(←悪いこと?)
- self-citationが多い(インパクトファクターを釣り上げている)
- Peer Reviewの根拠がない(2と同意)
僕も,一人で初めて英語論文に投稿したのはこのJPTSでした.あの頃はインパクトファクターもなく,minorな雑誌でした.それでも自分の英文が活字になって掲載されたときは,次に繋がる大きな自信につながったのを覚えています.
英語が苦手な日本人にとって,ファーストステップ的な雑誌の役割もどこかで必要かとは思いますが,上記の指摘のようになるとちょっとやり過ぎだろうと言われても仕方ないのかなと思います.ともかく個人的には,JPTSの掲載が僕の英語論文を書くモチベーションアップにつながったことは間違いなく,JPTSさんには感謝しています.
▼
なぜこんなことを取り上げたかというと,ここ10年で,教員になるための研究業績,そして大学院の修了も,インパクトファクターで決まるような,ちょっとえげつない世の中になってきました.さらに,ITの普及によって「紙面の関係でより良いものを選定しなければいけない」という概念がなくなりました.この2つの歪みがJPTSに集中したのでしょう.つまり,この件は,なにもJPTSだけが責められるわけではなく,僕も含めJPTSに投稿した著者も加担していたという,反省をもって取り扱わなければいけません.
▼
また,論文の編集や査読に携わる機会が増えてきてる昨今,改めてエリを正さなければと思ったのです.僕はいま日本臨床作業療法研究の編集長で,その他多数の論文を査読する立場にあります.査読するときには,論文が掲載されることの成功体験を多くの人にしてもらいたいという気持ちと,こんな論文は掲載できないだろうという気持ちと,常にジレンマを感じます.優しい僕は(笑),前者の気持ちが優位ではあるのですが,上記のJPTSのような指摘があると,ハリボテの成功体験は逆に当人にとって良くないかもしれません.
あ,あと,日本作業療法士協会のAsian journal of Occupational therapyも体制を整えていこうと学術部が頑張っています.僕も査読委員として応援するつもりですが,JPTSの同じ轍を踏まないことを期待しています.
最後まで読んでくださりありがとうございました.
2016年5月15日日曜日
お金がないから地域包括ケアシステムです。ではたぶんうまくいかないかな。
施設にいて地域には出てませんが、今日は地域について語ってみたいと思います。tomoriです。
すみません、長いです。
2025年に向け、沖縄県ではPT,OT,STの県士会3団体がタッグを組み、4月から一般社団法人 沖縄県リハビリテーション専門職協会なるものを立ち上げたそうです。今年度は県から委託費をもらいつつ、主に地域包括ケアシステム構築に向けた人材育成、人材管理・紹介、研修会などを行うそうです。昨夕はその一環として宮古島での説明会でした。
POS揃い踏みというのがとても良いなと思いました。地域ってどの職種がイニシアチブを取るかという椅子取りゲームになるのかなぁと思ってましたが、利用者の立場ではいうまでもなくどの専門職も必要な訳で、そのニーズに3団体が一丸となって応えることが、地域、市民に対する専門職として真摯な姿勢ですよね。
▼
さて、地域包括ケアシステム。市民の健康を、より川の上流から攻めるという目的では素晴らしいことです。長く心身の健康を保つことは多分QOLの底上げになるでしょう。そして、介護保険などの共助に依存しつつある社会の中で、健康は自ら創るものという自助の必要性を再認識してもらうことも賛成です。この辺にセラピストの自立支援と地域作りへの働きかけが期待されるところです。
ただ、日本の健康寿命は現時点でも高く、アメリカなどと比べて伸びしろは多くはないことを理解しておく必要があります(アメリカが今の寿命の伸び率でいくと今の日本のレベルになるのは30年後と言われています)。また、現時点でも介護予防の効果があると言っても、サンプリングバイアスの混入が加味されていない報告が多いと思われます。つまり介護予防の教室とかに参加する高齢者はもともとが健康志向であるはずなので、本当に問題なのは教室に来ない人たちに効果があるのか、どういうアプローチが良いのか、科学的な検証が必要かなと感じます(その点、首都大の石橋裕さんの閉じこもりの方の作業とQOLの関連をみた研究は興味深かったです)。認知症予防効果の話がもう少し前に出てきた方が良いかなと個人的には思っています。
▼
一方、地域包括ケアシステムの実現を費用削減を目的で説明し始めると、その達成は難しくなるので、個人的にはやめた方が良いかなぁと思います。
1番の理由は、地域包括ケアシステムは高齢者個々人の行動変容を促すために行われているはずなのに、経済のマクロの視点で説明されると集団心理が働くからです。人は、多く集まれば集まるほど、誰かがやるさ、自分1人が頑張ってもどうせ変わらないよ、と考える傾向にあります。しかも何兆何千億円とか、人口が何千万人とか、大きすぎてピンと来ない数字です。その結果、個々人のコミットが弱まり、システム構築はうまくいかないのかなと。僕なら、あなたが病気になった場合とならない場合とで、あなたの生活費、あなたの医療費、娯楽費、介護負担によるあなたの子供の家族の生活、孫の学費、がこう変わります、という説明をするかなぁ。あと消費税の話とか。そこまで落とし込んで行かないと、市民は地域包括ケアシステムを身近な問題に感じないでしょう。
2番目は、現行の介護保険システムでは介護予防にインセンティブが働かないからです。もはや介護保険は公共工事に変わる雇用創出ですので、倫理観の薄い支援者はどんどん介護サービスを加えていきます。そして宮古島の1万人あたりのヘルパー事業所数は全国平均の約3倍、デイサービスは1.7倍です。全国平均の高齢化率が25〜26%、宮古島は21%なのにサービスは多い。それくらいみんな生活が掛かっているので仕方ないことです。宮古島に限って言えば、もう介護を公共工事的して地方移住を促進してしまうのも手かもしれません。そのためには市町村持ち出し分を、移住者がもともと住んでいた都市部が持つことにしないといけませんが。ちなみに去年の都市部の高齢者へのアンケートでは、宮古島は何と介護移住先の人気ナンバーワンです(笑)
また3番目に、マクロ的な見方をすると、いま国全体の財源的には年金11兆、医療9兆、介護2兆円です。頑張って介護予防の無駄遣いを減らしても、生きてる限りは年金は支給され続けるわけで、生き方と併せて逝き方も考える必要があります。しかも医療経済学では、介護予防に経済効果は無いという見方が強いです。介護予防に経済効果があるという報告は、主に厚労省と財務省の資料ですよね?(笑)まあ経済効果があったとしても0.6兆円程度が目標値です。一方、去年は年金運用で5兆円の損失があったとも騒がれてます。介護予防の経済効果は全体でみればこのくらいのインパクトでしょう。プロパガンダに惑わされない知能を身につけたいものです。
▼
まとめると地域包括ケアシステムの必要性は高齢者の生き方を支援するのに必要という主張には賛成ですが、経済効果の切り口では少し微妙かなと思っています。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
登録:
投稿 (Atom)