2013年4月21日日曜日

tomori lab 文献抄読会(1) 作業中心?作業に焦点?作業を基盤?

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料理男子のohnoです.今年度より大学院生としてtomori labにお世話になっており,ゼミで学んだことを不定期ですが発信させていただくことになりました.まだまだ未熟者ですので,ご意見,ご指摘など頂戴できればありがたく思います.
※一応,最終的にUPする内容は,僕 tomoriが確認/修正しています.

先週読んだ文献は以下です.

Fisher, A. G. (2013). Occupation-centred, occupation-based, occupation-focused: Same, same or different? Scandinavian journal of occupational therapy, (October 2012), 1–12. 

Fisherは,作業療法士が自身の専門性や独自性に迷う原因の一つとして,専門用語が統一されないまま誤用されていることを挙げている.そこで,一般的に同義語として使用されることが多い,occupation-centred;作業中心,occupation-based:作業を基盤とした,occupation-focused:作業に焦点を当てた,以上の3つの用語について説明している.

1. occupation-centred

  • 専門職としての概念の中心に作業を据えることであり,作業療法の核となる考え方.
  • 作業的観点を持つことで,その他の科学やモデルの知識や技術を作業に関連づけて使用することが可能となる.
  • occupation-based, occupation-focusedは,この作業を中心とした概念のもとに実践される.


2. occupation-based

  • 実際に意味のある作業に従事しながら評価および介入を行うこと.
  • 作業を中心とした観点により,その作業が持つ意味性を重視した評価および介入が可能となる.これは,他職種の専門性では真似することができない作業療法士の独自の専門性だと言える.


3. occupation-focused

  • クライエントが現在直ちに取り組むべき作業に焦点をあてた評価および介入を行うこと.
  • 焦点を当てるべき作業は,”根幹に近い(proximal)”,”直ちに(immediate)”という点が重視され,将来的に起こりうるものや,作業遂行技能を向上させるための心身機能などの因子は含まれない.


また,これと同様,作業療法において用いられる作業は,a. 目的としての作業(occupation-as-end)と,b. 手段としての作業(occupation-as-means)に分類されることがあり,本論文においても注釈にてその説明が記されている.Tromblyが治療メカニズムとして作業の目的性と意味性を論じた講演を,吉川ひろみ先生が翻訳した論文を引用しながら,それぞれの分類について概説する.

引用:吉川ひろみ. "学びたい世界の作業療法 Catherine A." Trombly Occupation: Purposefulness and meaningfulness as therapeutic mechanisms 作業: 治療メカニズムとしての目的性と意味性. 作業療法ジャーナル 38 (2004): 144-147.


目的としての作業(occupation-as-end)

  • 作業を学習すべき目標とする考え方.
  • 作業遂行を概念化した「作業機能モデル」において,生活役割(life roles),課題(tasks),活動(activities)に相当することから,クライエントにとって意味のある作業に焦点を当てた実践であるoccupation-focusedと混同されることがある.

occupation-focusedとの相違点

  • occupation-focusedにおいて重視される”直ちに(immediate)”,”根幹に近い(proximal)”という概念以外の介入も含まれるということ
  • occupation-as-endは介入のみであるのに対して,occupation-focusedには評価および介入のいずれの行程も含まれる.


手段としての作業(occupation-as-means)

  • 作業を変化を起こす媒体とする考え方.
  • 作業を能力や身体構造を変化させる治療媒体として用いる考え方が,作業を実践的に用いることを重視したoccupation-basedと混同されることがある.

occupation-basedとの相違点

  • occupation-as-meansには,作業遂行を行うための準備段階(超音波などの治療機器の使用,ストレッチなどの身体機能面への準備的介入)も含まれる.
  • occupation-as-meansは介入のみであるのに対して,occupation-basedには評価および介入のいずれの行程も含まれる.



さらにFisherは,介入過程におけるoccupation-based, occupation-focusedのそれぞれの適用について,作業を中心とした介入モデルとして近年関心を集めている作業療法介入プロセスモデル(以下,OTIPM)を紹介している.

OTIPMは,①評価および目標設定,②介入,③再評価の3つの行程に分類される.

①評価および目標設定
評価および目標設定では,クライエントと作業療法士が治療上の協働関係を構築することと同時に,面接を通してクライエントから作業遂行に関する文脈を収集することが重要となる.面接そのものは作業に焦点を当てた(occupation-focused)評価であるが,あくまで実際に作業に取り組んではいないため,作業を基盤とした(occupation-based)評価とは言えない.面接を通してクライエントと作業療法士は作業を特定することが可能となり,作業が持つ強みや問題点が明らかにとなり,優先順位をつけることができる.次に,特定した作業をクライエントが実践している場面の観察を行い,課題と作業パフォーマンスの分析を行う.観察評価ではクライエントが重要であると判断した作業を用いた評価であり(occupation-focused),なおかつクライエントが実際に作業に従事している場面(occupation-based)の評価であると言える.occupation-centredという観点では,この段階でクライエントが作業に関連しない目標を強く希望された場合,作業療法士とクライエントは治療上の信頼や協働関係を再構築させる必要がある.観察によって得られた結果から,作業遂行を阻害している要因を明らかにし,治療的介入の方略を決定する.

②介入
 OTIPMにおける②介入には代償モデル(compensatory),教育モデル(educational),習得モデル(acquisitional),回復モデル(restorative)の4つがある.これらのモデルはそれぞれが単独で使用されることもあれば,複合的に用いられることもある.

代償モデルとは,環境調整や自助具の導入などの適応作業を利用することで作業の可能化を図る介入のことを指す.作業そのものに焦点を当てた(occupation-focused)介入であるが,作業に対する直接的な介入ではないため,作業を基盤とした(occupation-based)介入とはなりにくい.しかし,適応作業を通してクライエントの作業への従事を促進することが出来れば,代償モデルであっても作業を基盤とした介入ともなり得る.

教育モデルとは,セミナーやワークショップ,生活指導などを意味しており,作業に焦点を当てた(occupation-focused)介入となる.しかし,参加者が自身の作業に関して熱心に教育を受けていたとしても,実践的に作業に取り組んでいる訳ではないため,作業を基盤とした(occupation-based)介入とはならない.

習得モデルは,特定した作業に実践的に取り組みながら,作業技能の獲得と発達を図るモデルである.そのため,習得モデルは本質的に作業を基盤とした(occupation-based)でありながら,作業に焦点を当てた(occupation-focused)介入であると言える.

回復モデルは作業を通して心身機能の回復や発達を促進するモデルを意味する.回復モデルでは作業を通して心身機能に焦点を当てているため,必然的に作業に従事することとなるが,(occupation-based),クライエントによって特定された作業に焦点を当てた(occupation-focused)介入方法とは言えない.

 ③再評価
作業遂行と満足度の再評価が行われる.


以下,私見です.

ADOCの最初の論文では,”ADOC is a useful and acceptable tool for both clients and occupational therapists in shared decision-making in occupation-based goal setting. ”という記述があるが,Fisherが唱えた分類からすると,ADOCを使用した面接評価は”occupation-focused”であると考えられる.

Fisherは,全編にわたって作業を中心とする概念(occupation-centred)の重要性について説いており,この概念が作業を基盤とした実践(occupation-based),あるいは作業に焦点を当てた実践(occupation-focused)において,私たち作業療法士が何をすべきか,その専門性を導いてくれるとしている.実際の臨床現場では身体機能の向上やADL自立度の向上が急務とされることがあり,作業そのものに取り組むことが困難なケースが多い.しかし機能訓練やADLの動作練習でも,まずは作業を中心とする概念(occupation-centred)をクライエントと作業療法士が共有することが重要であると考えられる.介入については,Tromblyのoccupation-as-means, endの考え方が少し包括的で良いかもしれない.


最後まで読んでいただきありがとうございました.


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