諸事情により,4月末まで娘2人と東京で3人暮らしをしております.修行僧と呼んでください.tomoriです.
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さて,昨日は作業療法臨床実践研究会さんでお話させていただきました.頂いたお題は事例報告.
1990年代のEBMの襲来により,事例報告の価値が明らかに低くなりました.「事例報告」というだけで,研究として価値はないと判断される.それは大きな勘違いです.
そもそも事例報告はエビデンスレベルや効果研究の土俵で評価されるものではありません.事例報告の本来の目的は,より良い最先端の治療を求めて臨床現場で試行錯誤で行われる仮説生成のためのプロセス,つまり「質的改善研究」と言われています(斎藤清二).効果研究としての価値は低いですが,臨床において,自己成長や教育などにはうってつけの方法とされています.
質的改善研究というと,学生や新人の指導とかをイメージするのですが,違います.OTは専門職として一生べ勉強せなあかんので,自分自身にまず当てはめる必要があります.いや私は研究者です,という方もいらっしゃるかと思います.しかし近年の研究を見ていると,清水の舞台から飛び降りるかのように短絡的にRCTを実施して,実験群と対照群の間に差はありませんでした,というなんとも後味悪い研究も少なくないですし,これって臨床でどう使うんだろう…と臨床と接点が見えない「研究のための研究」もよくあります.これって,研究でもっとも重要な仮説生成のプロセスで,事例をすっ飛ばしているからこそ生じる現象ではないのかと個人的に思うところもあります.
もちろん他者の研究にどうこう言いたいわけではないのです.ただボクが言いたいことは,
事例報告なめんな!
ということです(笑) もちろん巷には,事例で言えるレベルを超えた内容の報告,仮説生成につながっていない浅い内容の報告,本来教育指導で行うはずが研究と履き違えてよく分からなくなっている報告などなど.なめられてしまうものも多いです.そうならないために,今回ボクは目的,方法,結果,考察と陥りやすいピットフォールと回避方法について説明しました,つもりです(伝わらなかったかもですが…)
事例報告は臨床家や学生さんが超多忙な時間の中で行われたものであり,指導したり査読したりする立場の方は,頭ごなしに「価値なし」とかじゃなくて,一定の敬意をもって「質的改善研究」として読み込み,適切なフィードバックを行う必要があると思います.そして,執筆する側も,上記の中途半端な内容ではなく,何が目的か読み手に明確に伝わるような書き方をしてほしいものです.
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そして,久々に One more thing…で(笑),「事例報告の逆襲」というスライドを何枚か足しました.これから事例報告の価値というか位置づけが変わってくると個人的には思っています.
RCTに価値があるのは,ある前提が存在するからです.
その前提とは,母集団の多くからデータをとることができないという前提があるので,母集団からサンプリングされたごくわずかな人でデータを取り,推定的統計によって母集団もきっとそうだろうと一般化を予測しやすいRCTが,偶発性を排除できない事例報告よりも価値があるわけです.またジャーナルには紙面に限りがあるので,事例報告よりは結果を一般化しやすいRCTに価値があることになります.
ここまで言えば分かると思いますが,この前提がおそらく変わります.近年,ウェアラブルデバイスの開発競争は目覚ましいものがあり,これによって多くの人からデータをクラウド上に吸い上げることが可能となり,大多数のデータを集めることができるようになります.また吸い上げられてくるデータから,臨床上意味のある最小変化(MCID)やら,正常値,異常値のカットオフなどを設けたり,ベイズなどの確率論を応用して使えば,1事例や少数例であっても,効果について今以上に詳細な検討ができるでしょう.さらに,ビッグデータをもとに模擬的にRCTを行い,因果関係をいくつか検証することもできます.この模擬的なRCTによって効果に影響している因子を特定してから前向きの本番RCTを行うことで,リスクを清水寺から2階建てくらいまで減らすことが出来るかもしれません(笑)
もちろん個人情報やら倫理的問題やら,データの維持管理やら,やらないといけないことは沢山あります.しかしOTはどの領域よりも先駆けて十数年前からやっています.
そうAMPSです.
OTって実はすごいんです(笑) でもAMPSのように有資格者のみ使えるようなものではなく,事例報告のように気張って書き上げるものでもなく,普段のナチュラルな臨床データをクラウドに上げることで,作業療法研究を大きく前進させることができるでしょう.
このように,RCTの価値を決める前提条件がIoTによって激変することで,RCTと事例報告は今以上に相補的な関係に変わってくるでしょう.相補的というのは,「両方とも必要」ってことです.
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作業療法は事例と共に歩んできた実学です.東に子どもがいれば行って看病をし,西に疲れた母あれば行って稲の束を負う,みたいな,その時分の社会情勢に合わせた支援を行ってきました.健康高齢者,発達,就労,などと新たな領域で作業療法の知識と技術を使った支援が行われています.次に作業の問題で困っている人はどこにいるのでしょう.そして作業療法は何ができるのでしょう.その最前線の事例報告も期待しています.
最後まで読んでくださり,ありがとうございました.
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