2013年7月4日木曜日

第47回OT学会発表 その1

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院生のohnoです.今日は,先日のOT学会で発表した演題について,発表中に皆様から頂いた質問に対する返答を交えて報告させていただきます.今回の学会では,私が昨年度までに勤めていた急性期病院において経験した発症早期からADOCを使用したトップダウンアプローチが功を奏した症例報告になります.

脳卒中急性期におけるトップダウンアプローチの実践報告ー作業選択意思決定支援ソフト(ADOC)を使用してー
Top-down approach in the acute stroke care using ADOC: A case report




はじめに
一般に急性期作業療法では,クライエント自身が発症直後の混乱の時期にあることや,医学的管理が必要とされることなどから,トップダウンアプローチの実践が困難なイメージが先行する.また,多くのクライエントが抱いている『リハビリテーション=機能訓練』という認識もまたトップダウンアプローチの実践の阻害因子となり得る. 今回,脳卒中急性期の症例に対してADOCを使用した目標設定を行い,トップダウンアプローチの展開が可能となった経験を通して,急性期作業療法における作業に基づいた実践(occupation-based practice; OBP)の有用性が感じられたため,以下に報告する.

症例紹介
・A氏,70歳代女性.
・診断名:ラクナ脳梗塞(右放線冠)
・社会的情報:入院前は日常的に介護を必要とする夫(要介護度4)との二人暮らし.夫はA氏の入院に伴い,介護老人保健施設に1ヶ月間の短期入所中.

作業療法介入時評価
・意識レベル:E4V5M6(GCS)
・Brunnstrom Recovery Stage:左上肢Ⅴー手指Ⅴー下肢Ⅴ
・FIM:123/125点(運動項目88点/認知項目35点)
・MMSE:29/30点(遅延再生のみ減点)

ADOCを使用した面接・介入経過(※詳細についてはポスターをご参照ください)
介入はベッドや車椅子,病棟のトイレを利用した介助動作,編み物,調理,買い物など可能な限り実動作を主体に実施した.20病日目にA氏は自宅退院となり,家事や夫の介護は続けながら,時間が空いた際には趣味である編み物や写真撮影を継続されており,退院後も作品をブログに掲載している.

考察
作業療法の社会的な認知度は未だに低く,クライエント自身からも機能回復に関する要望が聞かれることが多い.急性期は,機能回復が見込まれる時期でもあり,機能訓練も必要不可欠ではあるが,ADOCを使用することでクライエントが自身の大切な作業に目を向けることを促進し,作業の可能化に向けたトップダウンアプローチの展開が可能となった.また,近年トップダウンアプローチのプロセスモデルとして注目を集めている,OTIPM(Occupational Therapy Intervention Process Model)においても観察が重視されており,可能な限り実動作を用いた介入を行ったことで,介入に具体性が増したと言える.




以下,発表中に頂いた質問です.

Q. 20日間という短期間にすべての介入を行うことができたのか?
A.短い期間であるからこそ,クライエントとともに直近にどのようなゴールが必要なのかが具体的にイメージしながら実践が可能でした.また,OTが作業を特定した後は,買い物のために歩行能力の向上が必要であればPTに,夫の介護ケアプランの調整が必要であればMSWに,というようにそれぞれの専門性を活かした他職種との連携が円滑になりました.このように作業の可能化に向けたチームマネジメントを行うこともOTの役割の一つであると考えています.

Q. 2病日目から面接を行うことに対してのクライエントの反応は?
A. クライエントは入院直後の症状が軽度だったこともあり,主治医から【自宅退院】という方針が伝えられていました.発症に対する不安や,退院後の生活に関する不安など,クライエントからは漠然とした不安の中にいたと思います.そこで,介入早期から面接を通して必要な作業を特定することで,退院までのリハビリのストーリーが具体的に共有できたことが,クライエントとの不安の軽減につながったと思います.

Q. 他職種からの反応は?連携をするための工夫は?
A. 連携のために系統的なシステムは特にありませんでしたが,外出訓練などで3〜4単位の請求が必要な場合は,廃用症候群などでベッドサイドで対応していた方をPTにOTの分まで実施してもらうように依頼するなどして,調整を行いました.

Q. 急性期におけるOBPを実践する際に気にかけていることは?
A.自らの闘病体験をもとに作業療法について記した葉山靖明さんは,著書『だから,作業療法が大好きです!』の中で,【急性期の段階で「作業の種」を宿すことで,回復期,維持期と進むに従って,種が花となり,実となり,人生の大きな収穫となるであろう】としています.葉山さんの言葉にもあるように,急性期におけるOBPを行うにあたって私が重視していたのは,急性期の段階から,直接的に作業に介入が行えない場合にも,決して機能訓練のみに終始するのではなく,大切な作業の実現のために機能訓練を実施しているという認識を持ってもらうこと,すなわち「作業の種を蒔く」ことを心がけています.
急性期の病院に勤務されている方にお話を伺うと,近年は回復期などを経由せずに直接支度へと退院されるケースも増えてきているようなので,急性期におけるOBPの実践の重要性の高さが今後高まっていくと,改めて思いました.


本症例の詳細に関しては,下記の論文に記載されておりますので,ご参照ください.

大野勘太,齋藤佑樹,長谷龍太郎,友利幸之介.脳卒中急性期におけるトップダウンアプローチの実践報告ー作業選択意思決定支援ソフト(ADOC)を使用してー,神奈川作業療法研究3: 27-31, 2013.


次は僕の分を載せます.

最後まで読んでくださりありがとうございました.

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